2022年10月24日(月)10時から、新ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』の放送が始まりました。
本ドラマの生みの親である、脚本家:渡辺あやさん(52)とプロデューサー:佐野亜裕美さん(40)が「エルピス」の企画の着想を始めたのは2016年。
今回、2022年10月24日に第1話が放送されるまで、約6年もの時間がかかっていたことになります。
これは業界から見てもとても長い年月を要したという印象です。
なぜ『エルピス―希望、あるいは災い―』は、6年もの間、日の目を見ることがなかったのか…
今回は
・ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」の企画が通らなかった理由
・どこに持ちかけても断られた「エルピス」がなぜ放送に至ったのかなど
気になるドラマ制作の裏側、放送までの軌跡について探っていきたいと思います。
ドラマ「エルピス」の企画は、なぜ6年も通らなかったのか
企画の着想から6年、なぜそんなにも長い期間、「エルピス」は日の目を見ることができなかったのか。
それには大きく3つの理由があります。
理由1:「エルピス」の企画がそもそもラブコメディだったから
冤罪事件に挑むという、重たいテーマの社会派ドラマ「エルピス」が元々ラブコメディだったというのは驚きでした。
今回の月10ドラマ「エルピス」の生みの親である、脚本家:渡辺あやさん(52)とプロディーサー:佐野亜裕美さん(40)が初めてであったのは2016年の春。
この時2人にTBSからオーダーされたのは、郊外に住んで低価格帯アパレルショップの洋服を着ているような主婦にウケるラブコメをつくることでした。
しかし、ラブコメの企画を話していても全然盛り上がらなかったというお2人。
では、どのようにしてラブコメディから、
冤罪事件という社会問題を取り上げる企画になったのか。
渡辺あやさんは毎回誰かとものをつくる上で、まず、自分と相手(プロデューサーや監督)が一番納得して共有できる最大公約数みたいな題材はなんなのかを考えています。
「どういうテーマだったら2人が同じ情熱を持って作品に取り組めるのか。」それを見つけたいと思うそうです。
「佐野プロデューサーの情熱は、何に向いているのだろう。」
数々の渡辺さんとの逢瀬と対話、問いを重ねて、深堀りしていった先に、佐野プロデューサーは、自分の1番やりたいことが何か…に辿り着きます。
もともと佐野プロデューサーは法学部にも在籍していたこともあり、世の中の事件や裁判制度について興味を持っていて、死刑囚の日記を読んだり裁判の傍聴に行かれたりすることをライフワークにしていました。
日本のありとあらゆる犯罪についても詳しく、凶悪事件を起こした犯人についてもよく調べていたそうです。
日本の裁判の仕組みや法制度に対して、個人的に強い問題意識を持ち、渡辺あやさんもまた、佐野プロデューサーとそういう話や、今の政権に対する不満とかを話しているときのほうが断然盛り上がったのだと語っています。
そこで、どうやら佐野プロデューサーと組んでやるべきはラブコメじゃなさそうだぞ、と途中で気がついたそうです。
ある日、佐野さんが冤罪事件についてのルポルタージュを持ってきたことで、渡辺あやさんは冤罪がまだまだ現在進行形の問題であることを思い知りました。
正直、最初はまったく自分のやりたいことではなかったということですが、問題意識や危機感を佐野プロデューサーと共有することで、このテーマならこの人と最後まで同じ気持ち、同じ情熱を持って進めていけるぞ、と確信を持てたそうです。
こうして冤罪事件を基にしたドラマの企画が始まりました。
しかしTBSが初めにオーダーしたのはラブコメ。
もちろん企画は通りませんでした。
理由2:脚本の内容がテレビ局にとってリスクが高いものだったから
なぜこのドラマの脚本内容に、テレビ局が難色を示したのか、それは、マスメディアが犯罪などの事件や出来事に対して、誤報や、事実と確認されていないことを報道したらどういうことが起こるのか、ということが赤裸々に描かれているからでしょう。
さらにはそこに、どこからどういう横やりが入るのか、報道がどのようにひるむのか、真実がどう闇に葬られていくのかということも描かれています。
権力の横暴とそれに従属するばかりのマスコミの報道姿勢のあり方を問題視する内容に、TBSがリスクが高いと感じたのは間違いありません。
実際、2022年10月24日に放送された第1話では、冤罪事件という題材を通して、国家権力による隠蔽や圧力、マスコミの萎縮した報道姿勢について描かれています。
例えば浅川が、過去の自身のニュース映像を思い出しながら「全然覚えていない」と呟いていたシーン。
冤罪には、最初に無責任な報道をマスコミが一斉に行ったことも影響していると岸本は言っており、浅川は、マスコミは報道したことの責任を取らず、振り返って反省することもなく、目先のことばかり考えていることを自覚します。
他にも、世間を賑わせた「森友問題」の「森友」というワードをサラリと出し、
大門副総理の出てくるシーンでは、副総理が歩きながら「きょう何聞かれんだ?」と聞くと、斎藤は「ざっくり公約まわりですね」と返した。そこで斎藤が「森友止めてますので」と言うと、大門副総理が「あったりめえだろ、お前」と返し、互いに笑みを浮かべる、意味深長なやりとりも。
村井のハラスメントのシーンでは、村井の言動に耐えられない女性AD・木嶋(天野はな)が、浅川から村井に言ってほしいと迫ります。
岸本からのハラスメントに言及すること、それが「下の人間のために。それが責任じゃないですか」と木嶋が言うのは正論です。
でも浅川は何も言わない。木嶋だって、自分で言えばいいのに言わない。
こういうことが世間にはいくらでもあって、 ほとんどの人が、自分に降りかかる問題を何も言わずに抱え込んで、折り合いをつけながら生きているような気がします。
人の汚い部分とか、本当は見たくない触りたくない物事フォーカスを当てる、渡辺あやさんの脚本の魅力です。
6年もこの作品がなぜ世に出てこなかったのか、その理由や事実がそのまま反映されているようなドラマではないかと感じます。
理由3:担当のプロディーサー佐野亜裕美さんがドラマの現場から異動させられたから
エルピスの企画が出るのに6年の年月がかかったのには、佐野プロデューサーが異動となり、休職に至ったことも関係しています。
2016年から始まったエルピスの着想、はじめは主婦層向けのラブコメをオーダーだったにも関わらず、渡辺あやさんに出会い、冤罪事件を題材にした企画を進めていた佐野プロデューサー。
それが原因かは定かではありませんが、2018年の末に、ドラマの現場ではない部署に異動になってしまいます。
この人事について、佐野プロデューサーはこのように話しています。
組織として人事の意図はいろいろとあったようですが、私はずっとドラマの現場にいたかったのでショックを受けました。ドラマをつくりたくて入社したのに、ドラマ部に戻るには社内政治でうまく立ち回らないといけない。
たくさんの葛藤を抱え、とても辛い毎日だったことでしょう。
佐野プロデューサーはそのまま体調を崩し、しばらく休職を余儀なくされてしまいました。
「冤罪報道は国家権力に立ち向かうこと」、脚本家の渡辺あやさんはそのように話しています。
冤罪やマスコミの闇を暴こうとする、このドラマの制作の裏には、なにか見えない圧力や思惑が渦巻いていたのかもしれませんね。
リスクが高いと通らなかった企画がなぜ始動できたか
2016年から着想が始まった「エルピス」は、TBSにボツにされても、佐野プロデューサーは諦めず、色々なところに掛け合ったそう。
しかしどこに行っても断られました。
ことごとく断られたエルピスの企画はなぜ再び始動し、放送に至るまでになったのでしょうか。
再始動理由1:企画が通らなくても諦めず、脚本を最後まで書き続けたから
本来、ことごとく断られ、放送の場のない脚本をそのまま書き続けることはないそうです。
なので渡辺さんは、「じゃあ、もう言われた通りにラブコメをつくろうか」という話も佐野プロデューサーとしました。
しかし佐野プロデューサーは「もう私はいまさらあやさんとラブコメはできません! 私はこれをやります!」と言い、実現を諦めませんでした。
そこで佐野プロデューサーは、本来タブーなお願いを渡辺さんにすることになります。
何も実現できる保証がないままでしたが、脚本をこのまま一緒につくってくださいとお願いしたのです。
佐野プロデューサーは「エルピス」の初回放送終了後、自身のTwitterで当時のことをこのように明かしています。
佐野プロデューサーは当時を振り返り、「とんでもない無茶を言っていますよね。今思うと、「バカ!」と思います。でもこれが、私の心からやりたいと思える作品だったんです。」と語っています。
エルピスの実現には、佐野プロデューサーの熱意や執念、そして、「きっとなんとかするので」という佐野さんの言葉を信じ脚本を書き続けた渡辺あやさんの深い信頼関係があったことがうかがえます。
再始動理由2:台本を書いていた初期段階でオファーをし、仲間を増やしていたから
何も実現できる保証がないまま「脚本をこのまま一緒につくってください」と、台本を書き続けた渡辺さんと佐野プロデューサー。
実は2017年の春すでに、ドラマの音楽のオファーを大友さんにしていたというのです。
更には、そのまま3話ほど台本ができた段階でキャスティングだけでも先に決めたいと思い、真っ先に長澤まさみさんにオファーしました。
長澤まさみさんは、「ぜひやりたい」と快諾。しかも「なんでこれをすぐにやれないの?」とも言っていたようです。
企画の初期段階から主演は長澤まさみさんに決まっていたというのは驚き!
「立ち上げの早い時期から、長澤さんが『出たい』と言ってくださって、いろいろなことがある中、待っていてくださったということが、私たちにとって大変希望でした」とお2人はインタビューを受けた際、長澤の存在が大きかったことを明かしていました。
このように、「エルピス」の実現には、渡辺さんや佐野プロデューサーの想いに共感し、協力、心待ちにしていた、たくさんの方の存在や力、熱意があったようです。
再始動理由3:休職していた佐野亜裕美プロデューサーが復活し、TBSから関テレに転職したから
ドラマの現場から異動し、休職していた佐野プロデューサーでしたが、「やはり自分の人生の限られた時間はドラマづくりに費やしたい。」
その思いから、TBSを辞めて移籍することを決意しました。この作品を絶対に成立させたいと思っていたところ、カンテレ(関西テレビ)が「これはやるべき作品だ」と背中を押してくれたのも、転職の大きなきっかけだったそうです。
こうして、どこに持ちかけても断られ続けた「エルピス」は放送実現に向けて大きく動き出し、2022年10月24日ついに放送が開始されたわけです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
2022年10月24日(月)10時から始まった、新ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』が着想から6年もの年月がかかりました。
その裏には、渡辺あやさんと佐野亜裕美プロデューサーの思いや葛藤、休職や転職、様々なストーリーがありました。
エルピスに込められた熱意や想いがたくさんの人を介して広がったことで実現されたこのドラマ。
この裏側を少し垣間見たことで、今後のドラマの見方がグッと変わってくる気がしませんか?
渡辺あやさんと、佐野亜裕美プロデューサーのインタビューの全文はこちらから
よかったらぜひ読んでみてくださいね。